奥義ブログ

チェーン展開の奥義

私は現在でこそ独立した税理士ではありますが、20数年前に独立した際にすぐに顧問先になってくれたダイニングバー運営の社長に株式上場を目指すから役員として入社して運営を手伝ってくれと言われました。
その会社の社長は成長するビジネスモデルを持っていることもさることながら人格的にも大変魅力的だったので二つ返事で入社しました。
入社してから私の仕事は税理士なので財務・会計・税務はもちろんのこと労務・給与計算までは付随の業務として従事しましたが、出店の物件情報の収集・物件調査・交渉とか、従業員の指導・商標の管理とかいろいろ。
店舗のデザインとか、料理の指導とかといった異質のことを除くやれることをすべてやりました。
さて、会社の方は主要業態をダイニングバーからカフェの方に移しつつチェーン展開をし、東京にもいろんな苦労をしながら進出したところ、あるポイントから「マネーの虎」に出演するようになったり、商業施設への展開のチャンスも得ることができ、着実に展開をしていきました。
今回まとめてるブログの文章は、当時経験したことはなかなか経験できないことであり、本人も忘れないようにと文章に残したものであります。
内容の中には令和の世界ではもはや通用しなくなっているものも多々あるかと思いますが、一つのケーススタディとして理解していただければ幸いでございます。

【初日】

皆さんが何か一つ繁盛店を作ることに成功したとします。
どんなに頭のよい人でもビジネスプランが無限大にあるわけじゃないし、必ずしもプランが成功するわけじゃないですね。
ということは一つ繁盛店をつくことに成功すれば、それを最大限に活かさないといけませんね。
一つの飲食店が繁盛した場合、もっと利益を伸ばす方法は、

①席数を増やします
②値上げします
③営業時間を延ばします

でもこれでは限界も近い。
じゃあ、どうしましょうか?
ずばり多店舗展開です!!
多店舗展開・・・。
うーん、ビッグビジネスの香りがしますね。
でも、気を付けて下さい。
チェーン展開にはチェーン展開の奥義というものがあります。
せっかくのよいビジネスプランでもこの多店舗展開の奥義をはずすとたちまち失敗します。

【二日目】

まずチェーン展開シリーズの最初ですが、そもそもの話。
まず、どんな店をやりたいですか?

①今広島で流行っている店
②今東京で流行っていて広島に流行が来ると思われる店
③自分が前からこういうお店があったらいいなあ思っていて、自分だけじゃなくそういうお客さんがたくさんいるように実感できる店何か結論が決まっているようで皆さんをバカにしている質問のようですみません。

①はバカですね。今のエリアで流行っているのは、お客よりもむしろ運営側でブームなんですよね。少ないパイを大人数で奪い合って総討死です。
②は一見よりは取材しているのでいいようで、結局はバカ。まず東京ビジネスと広島の田舎ビジネスは違います。また、東京だとレアな市場でも人間が多いので商売が成り立っても、広島においてレアな市場はさらにレアになるので商売は難しい。
東京市場って、東京都1千万人だけじゃないですからね、神奈川、埼玉、千葉も考えた関東圏となると3000万人。
それと比較しての広島は広島市の100万人。これだと参考になりにくい。
おまけに本当にそれが東京で流行っているのかも疑ってかからないと。
業者サイドから言っているだけとか。
たまたまテレビで有名人が利用していたから。
お客が来ているだけとか。
ここ何十年、東京で大ブームと言って鳴り物入りでオープンしても 数か月で閉店した店を何回見たことか。
なので答えは③です。
でも、この③もクセモノなのです。

【三日目】

「自分が前からこういうお店があったらいいなあ思っていて、自分だけじゃなくそういうお客さんがたくさんいるように実感できる店」 をやれば、成功する可能性も大きいですね。
飲食業界って、すごくライバルが多いですよね。

その理由は

①飲食店をやるのに、弁護士みたいな難関資格を取る必要もないし、調理師さえいなくても、ちょっとした研修でオープンできます。
②場所も、その気になればどこだってオープンできます。とかありますが、もう一つの大きな理由は、誰だって飲食店のお客さんになれるので、こういう店なら行きたいなあという意識を誰だって思っているからです。つまり、顧客満足度を自分一人で測定できる。
ふーん。
でもここに落とし穴があります。
飲食店には出店費用もかかるので、投資費用が相当かかります。
庶民は借金をしたくないので二の足を踏みます。
一方お金持ちは、手持ち資金を投入できるので、有利。
しかし、このお金持ちは気を付けないと あまりにお金持ちで多数の客の嗜好がわからないこともあります。
「俺はこれだけ立派な店がいい」 と思ったところで、他に誰も共感できない一人よがりの状態では、商売は間違いなく失敗します。
「自分が前からこういうお店があったらいいなあ思っていて、自分だけじゃなくそういうお客さんがたくさんいるように実感できる店」 こういうお店をやりましょう。

【四日目】

「自分が前からこういうお店があったらいいなあ思っていて、自分だけじゃなくそういうお客さんがたくさんいるように実感できる店」
こういう店をやったらいいのです。
でもまた、ここで要注意。 ある男Aの話。
男Aは一般人で平均的な生活をしていた。
Aは、「よおし、こういう店に行きたいけど広島にないのでこういう店を作るぞ」と勢いよくお店を作りました。
彼の読み通り、というか彼の感覚は間違いでなかったので、そのお店は大ヒットして、成果として彼はセレブな生活を手にした。
より上昇志向を目指してつきあう人間も選んで変えました。
でもお店は流行もの。
いつかは陰りが来ます。
そこで彼はセレブな生活を維持したいため、もう一発勝負をかけます。
前回の成功を思い出して、
今の自分の感覚を信じて、
「こういうお店に行きたい」 新しい店を作りました。
その結果。
実は彼は獲得したセレブな生活のため、感覚が大多数の方とずれてきていました。
つきあう人も前のヒットのときの人たちと変わっていました。
要は彼の感覚に共感できる人はいなかったのです。
その状況では彼が「自分が行ってみたい店」を作っても誰も行きたいとは思いません。
結局、彼は最初のお店がなぜヒットして、次のお店がなぜヒットしなかったのかもわからないまま、閉店を余儀なくされました。
気を付けましょう。
ただ、生活感覚が変わるような成功を個人的には一回ぐらいしたいなあとは思っていますが・・・。
とここまで言っておいて、土壇場でちゃぶ台をひっくり返すのをご容赦ください。
すみません。
今までキレイごとをいってました。
実は繁盛店をやりたいのであればオリジナルはNGです。
オリジナルはパイオニアです。普通にやればまず失敗するのが世の必定。
モデル店があるならば、まずは徹底的にパクること。
うまくいかない時は変に自店の都合か嗜好かでモデル店のよいところを変えてしまっているかどうかをチェックします。
棚田は偉そうなことを言いながら結局はパクれと言うのか?と怒られそうですが、事実だからすみません。

モデル店を徹底的にパクれ!
これが繁盛店を生む方程式です。

【五日目】

チェーン展開とは、一つの店舗がうまくいけば、それと同じような方法で、いやもう少し洗練された方法で別の店舗を作っていきます。
そうすると現場にでていた社長もそういうわけにはいかないと現場に出れなくなったりします。
「身体は一つだし・・・」
「現場に任せているし・・・」
「社長はもっと上のレベルのことを考えないと・・・」
いろいろ理由や言い訳はありますが、とにかく社長は出なくなります。
そうした場合、便利なのが古くから回りにいる連れ。
彼らに任せれば、日頃から自分と接しているので自分の考えもよくわかっているし、相手が何を考えているかわかっている(つもり)なので安心。
でもちょっと待って下さいね。
その連れは仕事ができますか?
お店を任せるということはヒトの上に立つのですが、大丈夫ですか?
ちゃんと時間を割いて教えたことありますか?

【六日目】

何店舗かチェーン展開した社長は、もっともっと大きくなりたいなあと思ってきます。
当たり前です。
商売がようやく面白くなってきたんですから。
全国有名チェーンしている会社が現実感を持って、羨ましくなってきます。 世の中は不思議なもので、マイナーなときは
①銀行に行ってお店をやりたいと言ってもカネを貸してくれない。
②不動産屋へ行っていい賃貸情報はないかな?と思ってもカタログ情報ばかり、相手にされない。
③まともなコックさんなんか雇えません。
でも、一回成功させれば、
①銀行マンの方から会社に来ます。
しかも元々知らない銀行マンさんが来ます。
しかもしかもつき合いでいいのでカネを貸させてもらえないかとお願いされます。
②不動産屋さんの方から電話なり訪問なりあって、「こういう情報があるんだけどどうですか?」と公表前の情報が来ます。
まるで未公開株の売買のようです。
③頑張っている一流のコックさんの方から、アプローチされてきます。
④雑誌取材の電話がかかってきます。
テレビもあります。
⑤ビール会社とか諸々の偉い方が来られて、協力させてくれと言われます。
何の協力かわからないけど、いい話には違いないです。
日本特有なのか、万国共通なのかわかりませんが、まさに勝ち馬に乗れ!!といろんなところから人が集まります。
いい人間も、悪い人間も。

【七日目】

前回の話では、成功すれば人が集まるという話でした。
自分から行かなくても、向こうからやってくるのです。
これで、商売がどんどん広がったらこんな楽なことはありません。
私の頭の中で、繁盛店を一店舗作ったばかりの方は、 お笑い芸人の一発屋と同じと思っております。
えっ、いい意味でも悪い意味でも。
これからもっと大きくなるか、それともポシャるかは彼次第。
悪い意味での一発屋の特徴としては、
①自慢話が多い これやっちゃうと、もうまわりはイエスマンばかり。
有能な人間は多少プライドもありますから、こんな自慢話苦痛以外の何物でもありません。
どんどん社長から人が離れて行きます。
そんな誰が聞いても苦痛な話を聞ける人間はどんなヤツかと言うと・・・。
②周りを見渡すと、業者ばかりの人間関係になっている。 つくづく業者って恐ろしいです。
考えてみれば、お店をやるには、 大きな借金(失敗すれば自己破産も・・・)をしないといけません。
つまり売上を大きくするには、命を懸けた大きな投資をしないといけません。
一方、業者の方は、「社長、凄いですねえ。一生ついていきます。今度の取引もお願いします。」と言っていれば売上があがるのですから、 そりゃ、社長の自尊心をくすぐるお上手も手慣れたものでしょう。
昔の上司に、業者だけは気を付けろとよく注意されたのを思い出します。
随分、手練れな業者にやられて自滅して行った経営者を見ました・・・。
ああ、イヤなのを思い出してしまいました(><;)
社長、一発屋にならないように気を引き締めましょう。

【八日目】

前回のお話は、言い方を変えれば勝って兜の尾を絞めろということでしたね。
この段階をクリアして謙虚に対処していたときにまた要注意の話があります。
どこかしらか経営コンサルタントがやってきます。
どこか有名企業のチェーン化に一役買ったらしいのです。
彼らは一応ここまでのちょっとした成功を持ち上げつつもわがチェーンの欠点も批判してきます。
テーマも決まってます。
標準化
マニュアル化
効率化
が遅れています。
これでは多店舗展開に支障が出ます!!
全くの正論です。
チェーン化するのに標準化・マニュアル化してないとサービスのレベルが安定しないのです。
効率化すれば増益するのに、放っておくのは利益の機会損失です。
じゃあ、今の業務を見直しましょうとしたところでここはサービスの根幹。
何がウケて何がウケないかがわからない水商売の難しさ。
効率化したのはいいけど、お客さんが喜んでくれなくなったりでは本末転倒でしょう。
この見直しの作業をトップが部下任せになっている会社が多いです。
その部下は社長に信任されているコンサルタントと相談しながら見直し作業を進めていきますが、 当然パワーバランスはコンサルタント>部下
部下は「何か違うんじゃないかなあ?」と思いながらも、プロのコンサルタントに対して議論できません。
クチでは負けます。
アウトプット専門家でない部下はコンサルタントの主張に引っ張られていきます。
コンサルタントは自らの仕事の効率もありますので自分の型にはめ込んでいこうとします。
そして、お店のコンセプトも壊れて行きます。
まあ、このコンセプトという言葉も怪しいものですが・・・。
コンセプトって、無難な取ってつけたようなコンセプトも多い。
とにかく、創業当初の熱っぽさはどこかにとんで行ってしまいそうです。
このコンセプトに留まらずマニュアルの作成に関しても、 トップがコンサルタント・部下に任せるなんて言語道断。
第二の創業という位置づけでトップも真剣に取り組むべきでしょう。

【九日目】

チェーン展開の奥義ですが、まず一つは「確実な現金収集システム」ですね。
現金商売であれば売上はほとんど現金。
資金繰り的にはありがたい話ですが、この現金の扱いが厄介です。
①あるお店は毎晩夜中に銀行の夜間金庫に持っていきます。
②あるお店は毎晩お店の金庫に入金して、定期的にお昼に銀行に入金しに行きます。
③あるお店は本部の特殊な方がお店を回って現金回収してきます。
④あるお店は警備会社と契約して備え付けの現金収納機に入金して 定期的に警備会社が回収します。

①は店舗の一部スタッフに、夜中に入金しに行くというリスクがかかります。
銀行の夜間金庫代もかかるし、銀行が夜間金庫をやらなくなっています。
②はよほどいい金庫を買わないと、泥棒にすぐ盗られてしまいます。
また、本部への入金が遅れがちですね。
③はお店の人にリスクがない代わり、特殊な方の人件費が発生します。
④はノーリスクですが、警備会社への費用が相当です。
経費的には②<①<④<③でしょうか。
ただ、経費の問題もありますが、ビジネスにおいて現金を回収する行為はもっとも大事な経済行為の一つ。
そこに少々コストがかかるのは仕方がないのではないでしょうか。
従業員を強盗等から守る意味でも重要ですね。
昔東京でチェーン展開していた会社の話なのですが、 あちらの銀行では夜間金庫はほとんど引き受けてもらえませんでした。
小さなお店なので、警備会社に依頼する経費は負担できません。
そんなときに思いついたのが、たくさんの会社口座を作って、キャッシュカードを多数発行。
店長にここに入金するようにと配布。
なるほど、これなら夜間金庫代もかからない。
でも、そのときの店長は毎日売上金を持って帰らないといけません。
朝まで大事に管理しないと。
仕事終わってから飲みにいくなんてできなかったでしょうね。
お仕事とはいえ、店長さん、ご苦労様です・・・。

【十日目】

さて、昨日は売上現金を確実に回収することの大切さをお話しさせていただきました。
今日はもうちょっと前の話です。
繁盛店といってもそこには創業者が張り付いています。
勢いがついて二店舗目へ・・・。 この段階で大きな問題が起きます。
そうです。
創業者は一人の身体しかないのです。
二つの眼しかありません。
どうしたって、創業者から見れば、死角が生じます。
その死角に限って、過ちが起きます。
お店を任せた有能な部下であってもです。
密室の中で目の前に1億円の札束があれば一枚くらいなくなるのが必然。
でもその過ちもいつか露見します。
露見すれば何が起きるでしょうか?
そのときはその有能な部下が会社を去らなければいけなくなるのです。
お店を任せるくらい有能な人間にもかかわらず・・・。
ということで、二店舗目から事件の発生可能性は極端に高くなります。
これに合わせて、経営者は「事件は起こるもの」と性悪説で対策を事前に練らなくてはいけませんね。
伝票どおりに入金されていますか?
勝手に値引きされていませんか?
伝票を通さずにサービスが提供されていませんか?
そのチェック作業は従業員に任せきりになっていませんか?

【十一日目】

さて今日は昨日の続き。
距離の離れた店舗を管理するのに今は文明の利器があります。
POSレジ
防犯カメラ
テレビ会議システム
グループウェア
いろいろあります。
でもこれって実は完全ではないです。
設備を導入する社長は、今私が言っているようなブラックな話を設備導入のときはコストパフォーマンスも含めて時間をかけて考えます。
導入前にはですが・・・。
でも、現場の人って、ずっと現場にいるのです。
そりゃ、カメラにだって死角あります。
悪いことはする人は死角でやっちゃいます。
POSレジも通さなければただの箱ですし・・・。
この設備がムダだと言っているのではないですよ。
十分有効です。
言いたいのは、 油断するな!!
ってことです。
定期的に店舗廻りというアナログ的な動きも必要かと思います。
ということは、店舗展開時に店舗廻りしやすいように出店計画もした方がよいと思われます。

【十二日目】

ちょっとブラックな話が続いていますね
ブラック専門税理士にでもなりましょうか(^^;)?
さて、このシリーズが終わらないうちに、 私は税理士なので言わなければいけないことを・・・。
チェーン展開は、間違いなく他人の手に委ねなければいけません。
他人の手に委ねて、その人にやる気を持ってもらって・・・。
最近私が開催したセミナーの中で 黒字経営を継続する秘訣とは
①業績がオープンであること
②目標を共有すること ということ
を発表させていただきました。
これにより、管理もしやすくなるし、社員のやる気もアップするし、個人プレイから組織プレイへと脱皮するし、次世代経営者も育成できます。
しかし、このベースにあるのがオープンであることです。
全部が全部オープンする必要もありませんが、 売上だけはどう考えてもオープンにしないといけません。
そんなときに魔が刺して売上は抜かないでくださいね。
税務署も気付かないからいいやと・・・。
ばれることはないから・・・。
税務署は確かに見てないかもしれません。
でも毎日現場にいる従業員には見えてますよ。
見つけてもその従業員は黙ってますが・・・。
そしてその従業員はいつかそのノウハウを自ら実践することになるでしょう(><)!!
やめときましょう。
チェーン展開を決断した瞬間に、会計はオープン・公正に!!
そしてビジネスを大きくしてそこから稼ぎましょう!!
売上を公正にすることが大きくなれるかの試金石です(^^)

【十三日目】

会社を運営していると、管理面でトラブルが起きます。
従業員が現金を持ち出す。
従業員が食材を持って帰る。
従業員がタイムカードを不正に打刻する。
従業員が知り合いに無銭飲食させる。
等いろいろあります。
そうしたときに、よく出てくる理由が、 「うちは性善説で考えていまして・・・」
最初のうちは、 「ほうですか。ほうですか。やっぱり万が一のことを考えれば性悪説で考えていないといけませんね。従業員を守る意味でもあります。」 とちゃんと答えていましたが、 「この問答を今まで何百回言ってきたかなあ?」と思います。
これからは、私も考えて、「言い訳いうんじゃねえ。性善説・性悪説と言いながら、要はお前がやってないだけじゃろ。 怠けるな!!性善説だろうが、性悪説だろうが、ちゃんとやれ!! お前はそれで給料もらっているんだろうが・・・!!」
不毛な性善説・性悪説の論争から脱出して、言い訳を言わずちゃんと管理の仕事をしましょう。

【十四日目】

思うのですが、10年程前は大手がやっていないニッチな分野を見つけてそこに一極集中して、まず一店舗を成功させて、それを一気に展開するという手法が流行っていました。
でも今は大手も川下に来るし、一店舗を当てたとしても自社が他店舗展開する前に 他社に競合店を立ち上げられます。
つまりせっかくの蜜が美味しくなくなっています。
それよりも重要なことですが、店舗には運営する人が必要です。
10年前は今ほど出店計画の際に特別に考えなくてもオープン告知・オープンの求人広告で間に合うことも多かったです。
でも、今は厳しい。
プランも資金があってお店ができても、それをやる人がいない。
よくある話です。
悩みの内容も変わってきました。
10年前は店舗展開したいけど、スタッフは求人でそろえるとしてお店を任せられる幹部がいないという悩み。
そのうちにつぶしの効く社員がいないという悩み。
そして、今ではバイトもそろわないとか。 それじゃ、いるのは社長だけ(><;)!!
オープンスタッフはどこから調達して、オープン後もなかなかスタッフが辞めないようにして、欠員が出てもどこから調達できるようにするかを最初から考えておかないとダメです。
長期的視野も必要です。
他店ではなくうちの店でどうしても働きたいと思われる魅力こそがこれから生き残るノウハウでしょうね。
もっともチェーン展開をするなら、常に余剰人員を抱えておくくらいでないといけませんし・・・。

【十五日目】

今日はチェーン展開をしていると、資金繰りに行き詰ることがあります。
要は運転資金不足ということですね。
ここでいう運転資金にはいろいろあります。
①収入と支出のズレを埋める資金・・・本来の運転資金
②最初赤字スタートから始まって徐々に黒字化する予定だが、黒字化するまでのつなぎ資金
③当初予想できなかった設備の追加に要する資金
④スタートが不調のため、追加する広告宣伝費
といろいろ出てきます。
銀行も出店後急に資金が必要になったからと言ってもなかなか動いてはくれません。
本当に運転資金が足りなくなったら、計画通りに事業が進んでいないことを示すわけで、負け戦に誰も協力してくれません(><)
まさに「泣きっ面にしょんべん」状態ですね。
運転資金は大いに越したことはありません。
出店計画からあらかじめ見積もってこの資金を大きく確保しときましょう。 あの手この手を使って・・・(ニヤリ)
ご用命いただければ、いろいろ棚田秀利税理士事務所は頑張ります!!
私はクライアントにこの運転資金を精神安定剤と呼んでいます。
備えあれば憂いなし!!

【十六日目】

チェーン展開をしている社長が各店舗のスタッフに対して「経営者感覚がない」とぼやいてばかりいるケースが多々あります。
でも、ここで素朴な疑問が・・・。
「経営者感覚」って何でしょう??
スタッフは決して社長と違って決して大きな借金を背負っているわけでもないし 、インセンティブもそれほどあるわけではありません。
立場が全く違います。
立場が違うから期待できないのでしょうか。
いいえ、ここで提案があります。
会社の経営数字についてオープンにすべきでしょう。
オープンになれば自社の立場もわかるようになります。
自分が所属するお店がどういう状況かわかるようになります。
まずはここから。

【十七日目】

さて、いざ損益計算書をオープンしましょう。
と言っても全部オープンできますか?
人件費の取り扱いは要注意ですね。
例えば会社の損益計算書では役員報酬の記載があります。
役員報酬の金額はオープンできますか?
ここは経営方針にもかかわることですから よく検討しましょう。
一般の会社では役員報酬を開示すると役員報酬が一般社員の水準よりかなり高い場合が多いので、従業員が会社社長に搾取されているとか思うかもしれないということで開示していないケースが多い。
まあスタッフに開示しても納得されるぐらい 役員が日頃頑張っていれば心配する必要もないのですが・・・。
またスタッフの少ない店舗だと人件費の総額がわかれば特定の人間の給料の金額が把握できるようになるので取り扱い注意です。
でも例えば東京で「モンスーン・カフェ」「ラ・ボエム」「権八」等を大きく展開する株式会社グローバルダイニングでは社長の長谷川幸造氏は年収4000万円と公示していました。
各店長の年収もオープン。 そこで稼ぐお店の店長であれば年収1000万円も夢じゃないという成果給・能力給で従業員のモチベーションを上げていました。
優れた能力のアルバイトスタッフには時給3000円もおられたようです。
あえてさらけ出すことにより社員・アルバイトのモチベーションアップにつなげたということでしょう。

【十八日目】

さて、前回では経営数字をオープンにすべしとのことでした。
ここで経営数字とは損益計算書のことをいいます。 損益計算書を見ることによって 会社が儲かっているのか お店の経営がうまくいっているのか、スタッフは判断できます。
でもただ損益計算書をオープンしたら、スタッフは理解するでしょうか?
非常に頭のよい人
商業高校卒業の方
だったらすぐ理解するでしょう。
でも普通の人はわかりません。
そんなときに一度会計、特に損益計算書の読み方について勉強会をするのも良いかもしれません。
またある会社では簿記検定三級をとらせています。
簿記三級程度だったら1、2月もあれば習得できます。
まずは研修をしてスタッフの質を上げましょう。

【十九日目】

さて前回はどこの店にいっても、誰が作っても一緒にして、いわゆる標準化という作業をして店舗管理をしやすくするという話をしました。
確かに標準化によりチェーン展開が容易になりました。
そのためいろんなチェーンができました。
でもそろそろ曲がり角ですよね。
どこに行っても同じ味ですよ。
仕様書発注の効果も大きいと思いますが、化学調味料の弊害もあるのではないかと思います。

化学調味料は健康上の問題はさておき、各店舗のメニューの標準化に大きく効果がありますが、「いつでもどこでも同じ味」
いい意味でも、悪い意味でも。
つまり、チェーン店の味に飽きてきました。
別に私は特別な人間でもないので
そういうことを感じている人は多くなっているのでは?と思います。
それは売上として如実に物語っているでしょう。
やはり個性が大事。
いいオーナー店の魅力って・・・。
店舗間のブレがお客さんの不満を作っているので標準化すると今度は飽きられてしまう。
これからは標準化もしながら、同時に個店の特徴も出していく。
自己矛盾したテーマですが、そういうチェーン展開はどうしたらいいのか。
そういうノウハウの構築が今求められているのではないかと思います。

【二十日目】

今日はこれまでの中で一番大事で、経営者にとっては耳の痛い話です。
お店は従業員の頑張り次第で、どうにでもなると考えられています。
従業員が頑張っていれば、具体的に言えば、接客が良いとか、料理が良ければお店は繁盛し、 従業員が頑張っていなければお店はダメになる。
これはある意味真実でありますが、その反面、経営者にとって都合の良い話なのです。
もちろん、お店の成功のカギは従業員の頑張りにかかってもしますが、それよりもうんと重要なのは、どんなお店をやるか? どこでやるか? とかいった話です。
コンセプトがダセえお店には誰も行かないし、場所も悪ければ誰も行きません。
その肝心なお店のコンセプト・立地は誰が決めますか? 中小チェーンの場合、大抵の場合経営者ですね。
そうです。
経営者の最初の判断が間違っていれば、後で従業員がいくら頑張ってもダメなのです。
従業員のミスは経営者が指摘します。
でも、大事な経営者のミスは、経営者のほかに指摘する人はいません。
経営者のミスを糾弾する上司でもいればいいのですが、 そんな人はいません。
結論を言えば、
①まず経営者はコンセプト・立地を間違うな!
②自分が間違ったにもかかわらず、そこをムシして、お店が流行らないことを従業員のせいにするな!
ということです。
かつて阪神タイガースの江本孟紀はこういって 阪神タイガースを退団・現役引退しました。
「ベンチがアホやから野球がでけへん」 そうです。
社長がアホやと、店もうまくいかないし、有能な部下も辞めますよ。
※私はマニアなプロ野球ファンです。
確かに江本孟紀はこんなカッコいいことを言って辞めました。
でも、彼の成績は決して芳しくありませんでした。
多分、現役続行していても大した成績は上げられなかったでしょう・・・。
でも、辞め方がカッコよかった。
大口を叩いて、一方で「プロ野球を10倍楽しく見る方法」を出版して、それがベストセラー。
その後はタレント・政治家に・・・。
野球以外の才能が凄かったと見るべきか。

【二十一日目】

一般的な話ですが、一見凄そうに思えるチェーン展開をしていると、一つ一つのお店を出店決定するにも慣れて来ます。
ここで、一つの問題があります。
出店決定に慣れてくると、どういう店が流行って、どういう店が流行らないのかが容易にわかるようになるのでしょうか?
世の中にはすごい人はたくさんいると思いますので、例外は当然大いにあるということで、ご容赦頂きたいのですが、凡人の私はその境地に達しませんでした。
その中で敢えて私がかつてチェーン展開に慣れたとき、私はその店が流行らない根拠を言うことはできました。
でもその一方で、絶対にこの店が流行ると確信できたことはほとんどありません。
もちろん流行ってほしい願望は人一倍ありましたけど。
流行らないポイントが見つからなければそれが流行るということにもなりそうですけど、なかなかそういうわけにはいかない。
大抵の出店は、ずっとこの店は本当に流行るのだろうか?
後で流行らない根拠が出てくるのではなかろうか?
とずっと悩んでいました。
出店した後でも 「神様、お願い!!」 と祈っておりました(涙)。
実は、私が関わって、絶対にこの店は流行ると確信できた店はたったの一店舗しかありません。
すみませんm(_ _)m

【二十二日目】

さて前回は、出店決定に関して、なかなか必ずこの店は流行る!!と確信できる案件には出会わないことをお話ししました。
実はここからが重要なポイントです。
というのはこれから、チェーン展開できる経営者とチェーン展開できない経営者に分かれる分岐点があるのです。
出店決定に至るまで、実はたくさんの人間が動いております。
不動産屋
不動産のオーナー
店舗設計者
内装施工業者
食材卸売業者
ビールメーカー
銀行マン・リース会社
店長・料理長
数えればキリがないです。
出店決定作業をしていると、その方たちの期待をも背負うことになります。
そんなときに出店をしない決定をしてしまうと、その方たちの圧倒的な失望もあるでしょう。
それは苦痛です。
できれば、その方たちの期待にも答えたい。
もしかしたら、失敗するかもしれない不安は根拠のないものかもしれない。 もしかしたら、成功する可能性も意外とあるんじゃない。
こんな情に流されて出店決定してしまうと終わりです。
なぜなら、失敗する根拠を見つけているのなら当然失敗するからです。
私もいろんな社長を見てきましたが、チェーン展開できる社長は、出店意思表示を慎重に慎重に保留して、出店できないと睨めば出店しない意思表示を非情にできる人です。

【二十三日目】

最近、ワタミとかすき家の業績不振が話題に登ることが多い。
これらの企業は一時ブラック企業としてやり玉に挙がったことも共通している。
しかし、それは今私が言いたいことではない。
その昔、私はある外食チェーンの幹部にいた。
その企業は上場を目指しており、財務を担当する私は、その準備に追われ、情報もいろいろ収集していた。
そんなある日、大戸屋さんの悲劇を聞いた。
平成13年上場した大戸屋社長はマスコミにもてはやされていたにも関わらず、翌年証券アナリストに散々叩かれた。
その理由は、「全体売上はともかく、既存店舗の売上が前年比ダウン。しかし、それに対する具体的な対策を打ち出せていない」 ということだった。
「既存店舗の前年比ダウンの対策をマスコミに詰められる」という状況に、当時は「明日は我が身か?」と身震いした。
そこそこ実力ある外食チェーンは新規出店すると、事前のマーケティング、広告宣伝もぬかりなく行うので、最初から売上は好調である。
しかし、その店の最大の魅力は、目新しさ。
目新しさが魅力の店舗は、陳腐化も速く、入客も開店当初ほどではなく、少しずつ売上を下げていくのは業界の常識。
それを叩かれるなんて、 私は殉職するなと思った(><;)
陳腐化というのは外食企業の最大の課題だ。
上場しているからと言って、それは免れない。
マクドナルドやすき家・和民のナショナルチェーンは多くの飲食店とは違って陳腐化しにくいだろうなあと当時は羨ましくおもったものだが、やはり陳腐化するのである。
陳腐化するのであれば、スクラップアンドビルドと言って、新店舗を作ればいいと言っても、 この狭い日本、限界はいずれ来る。
では新規業態開発かと言っても、そう簡単に優れた既存業態を超える業態なんてできるものではない。
マクドナルドやすき家もそういうステージにいるのだろう。
例外ではなかったということか。

【二十四日目】

今日は「スクラップ&ビルド」について話そうと思います。
一般的にチェーン展開をする企業の戦略の一つに「スクラップ&ビルド」があります。
要は不採算店は直ちに撤退して、代わりに新規出店をすることです。
昔、チェーン展開を携わっていた際にあるコンサルタントと意見が衝突しました。
新規出店したけど不振が続く店舗はスクラップ&ビルドとしてただちに撤退すべきという話でした。
確かに一理ありました。
本来なら、財務担当の私がそう提案すべきことでした。
でも、商売ってそんなものでしょうか?
私が反発したのは、外食の場合、1店舗出店するのに、金銭的な投資もそうですが、 さまざまな交渉、いろんなスタッフの努力、外部の方のご協力が詰まっています。
そうしたことをムシして、あらゆる方向からの改善案を吟味せず、「損切」だとか「スクラップ&ビルド」とかの美辞麗句でごまかして撤退するというのは軽すぎるんじゃない?と思いました。
ゲームじゃないんですよねえ。
財務的にはかなり大きな除却損の計上が待っています(><)
そうしたギリギリの時点でどう踏ん張るかが利益を継続して出していく企業かそうでないかの違いがあると思います。
ただし、踏ん張ると言ってもアテもなく無制限に粘るというのはまさに「泥船に乗る」状態です。
期限を定めて、思いつく改善策を集中的に投下して、結果を待ちましょう。
それでもダメなら、仕方ないですね。
断腸の思いですが、心を新たに別のところで頑張りましょう(^^;)

【二十五日目】

この奥義シリーズ前回では、「お店の撤退はあっさりせず、頑張って粘れ!!」という話でした。
でも、その根性論のようなことはすべてに言えることではありません。
ある全国展開する惣菜チェーンの社長が話してくれました。
「棚田君、惣菜屋っていうのは作ったものが全て売れれば大きく利益が出るが、売残り(ロス)が出たら、利益率は格段に下がる。 惣菜を作るのに食材原価もかかるし、そこに労務費もかかるし、おまけに廃棄費用もかかる。 ロスを出さないようにするのが黒字経営最大の秘訣だよ」
なるほど。
じゃあ、そのロスを出さないようにするには??
社長「ロスを出さないようにするには、売残り商品をある程度見切って割引販売をする。 しかし、これを早く見切りすぎるとせっかく稼げるはずの売上が伸びないし、見切りが遅いと大量のロスが発生する。 見切りのタイミングが大事だよ。」
むむ、その見切りのタイミングは何かマニュアルでも?
社長「いや、簡単なものはあるが、基本的に現場の店長に任せている。現場でないと判断できないことが多いからねえ。」
なるほど。
見切りのタイミングが大事ということですね。
見切りは早すぎても遅すぎてもいけない。
その見極めは大事ですね。
いや、奥が深い(^^)

【二十六日目】

実は私は平成17年まで税理士ではありましたが、外食チェーンの展開一本で頑張ってました。
今から考えると風変わりな税理士でしたね。
まず、外食業以外の医療業の世界に参入しました。
ここで驚いたのは、医療の場合、郊外でクリニックを開業しようとした場合、そこで何人くらい患者さんが来るか割と手軽な形で予想できます。
いわゆる診療圏調査というヤツです。
診療圏内推計患者数=診療圏内人口/10万人×受療率 で、受療率は、厚生労働省が3年に一度行う「患者調査」の結果をもとに、傷病別、性別、年齢別などに計算されています。
個々の医師・スタッフの能力とか他クリニックの動向とか 多少の予想のズレはありますが、想定の範囲内での予想が出来ます。
このことを知ったとき、凄いなあと感心しました。
ファミリーレストランとかは多分これに近い手法で、ある程度の入客予想はできると思います。
しかし、私たちの舞台は
①規模が零細。
②大きく居酒屋という分野で考えると、出店予定のエリアでは飽和状態。
③②の状況のため、あえて他店がやってないようなものを創出して、新たなニッチを作り出している。
つまり類似店がない。
④どこまでのエリアのお客さんを相手にしようとしているか想定できない。
等のさまざまな理由で客観的な入客予想は困難です。
実はこれもコンサルタントと論争したテーマでした。
当事者感覚の乏しいコンサルタントは知識を持っているようですが、パターン化して簡単に考えようとしますが、ニッチを攻めているのですからパターン化できません。
外食はやはり水商売。
誰でも参加できますが、あまい商売ではないですね。
そのチェーン展開なんて、恐ろしく難しいことをやろうとしていたのですね。